最近発生した、事故事例です
労働安全の視点からの検討内容などを、記しておきます。
事故事例Tマンホール清掃作業員死亡事故 | ||||||
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発生日日 | 2020年1月24日 | * | ||||
発生時間 | 午前10時20分頃 | * | ||||
発生場所 | 愛知県A市・市道交差点 | * | ||||
事故概要
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【以下、朝日新聞DEGITAL2020年1月25日からの情報】 亡くなったのは、A市内の男性会社員Bさん。 Bさんは、事故当時、ヘルメットを着用し、マンホール内の下水管を一人で清掃していた。 交差点の横断歩道内にあるマンホールから頭を出したところ、右折してきた乗用車の底部と頭が接触したと言う。 囲いなどは設置されていなかった。 現場の南側で男性警備員が交通誘導をしていたが、車は北側から交差点に進入した。 |
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RA的 考察 |
この作業者は、たぶん、はしごなどを使ってマンホール内から外(車道の真ん中)に出ようとしていたと思われます(左の図1参照)。 「乗用車の底部と頭が接触した」ということは、この事例では、マンホールのふたはなかったかもしれません。 人間は、走行中の車にぶつかった時、または、高い所から墜落したとき、死亡する危険性が非常に高いといえます。 しかし我々は、日々の糧を得るためには仕事をしなければなりません。そして仕事をするうえで、例え死亡する危険性がある行動であっても、その行動を避けるという選択肢がない場合もあるいうことは厳然たる事実です。そこで可能な限り安全に仕事を進めるうえで必要になるのが「リスクアセスメント」という考え方です。 「リスクとは、我々の日々の糧を得ることである」といった、有名なコンサルタントがいます(ドラッカー博士です) 労働災害を未然に防ぐためには、この「リスクアセスメント」を理解する必要があります。 そして、リスクアセスメントを理解するためには、まず「労働災害はどのようにして発生するか」を知ることが重要です。 論理的な安全衛生管理では労働災害はシナリオに沿って発生すると考えます(図2参照)。 シナリオとは…映画、放送などで、場面の順序、俳優のセリフ・動作などを記した脚本(広辞苑第3版) 実際の作業事故が、時々テレビのニュース番組などで放映されますので、その場面を思い出して頂くと「労働災害のシナリオ」と言う意味は容易に理解できると思います。 作業の現場で、働く人は様々な危険源(図1の場合、具体的には、マンホールの上を通過する車(運動エネルギ)や、作業者の体に作用する重力が生み出す位置エネルギ等です。)にさらされて仕事をしています。その様子を撮影すると、きっと一連の作業のシナリオが記録されるでしょう。 普段、我々は日常の仕事に対しては「安全な仕事の終了」を迎えます。何故なら、危険源に曝されて仕事をする私たちは、思いがけない周囲の状況変化に対応する安全対策をシッカリ行っているからです。何事もなく安全な仕事の終了を迎えた時、その日一日の作業のシナリオを記録することも、意識することも、普通はありません。 しかし、安全対策が周囲の状況変化に対応できない事態が発生した時、危険源はそこで働いている人に直接影響を及ぼすことになります。 労働安全上はこのような事態の展開を「危険状態」が「安全対策の不備」により「危険事象」に進んだと考えます。「危険事象」はその後の展開によりヒヤリ・ハット、軽傷災害、重症災害、死亡事故等の結果に分かれてきます。 以上の一連の事態の推移をビデオ等で撮影しておけば、「労働災害発生のシナリオ」を観られることになります。
労働災害のシナリオを理解するためには、以下の3つの言葉の意味を理解しておくといいと思います。 (1)危険源…図1のマンホール作業にあっては、車の運動エネルギ、作業者の位置エネルギ(マンホールの底部からの高さ×作業者の体重)等。「エネルギ」という考え方がキーワードになります しかし、マンホール内での清掃作業に対する危険源はこれだけではないと言う事を確認しておきたいと思います。例えば、発生する硫化水素などもしばしば、危険源として問題になります。 (2)危険状態…図1で言うと、走行車両が作業者に激突するかもしれない状況,つまり、人が突進してくる自動車と言う危険源に直面している危険状態といいます。 また、作業者がマンホールの梯子を上ってゆく状況では、「いつ何時、墜落してマンホールの床面に激突するかもしれない」という状態です。この状態を作業者は位置エネルギと言う危険源にさらされた危険状態であると言えます。 (3)危険事象…周辺状況の変化や新たな周辺状況の発生によりもたらされる、危険状態の作業者が危害をこうむる可能性のある新たな事態(又はその作業者が被った実際の事故)。 【Q】マンホール内の清掃作業員の死亡事故を未然防止するために、事前にできることが有るとすればそれは何でしょうか? (1)事前には特に何もやらない…今まで何も起きなかったから、何もしなくても特に事故は起きない。 (2)事前に作業者に「自分で考えて、よく注意するように」と、作業担当者の気を引き締める言葉をかける。 (3)過去の作業記録の中に、同類の作業の中で、ひやりとした事例やハッとした事例があれば作業者に伝達して、同じ過ちを繰り返させない。 (4)会社方針としての位置づけの中で、経営者を頂点とする体制を整え、その責任と権限の下でリスクアセスメントを実施して、効果的な予防処置を確立した上で個々の業務案件(マンホール内の清掃作業を含む)はその枠組みの中で遂行する。 上記の【Q】に対する答えは、(4)です。(4)はほゞ「リスクアセスメント」の考えに近いものです。 なぜ労働安全問題の解決にとってリクアセスメントが必要なのか…?それは、リスクアセスメント=予防処置業務そのものだからです 「労働安全問題には取り組んでいるがリスクアセスメントはやっていない」ということは「労働安全管理体制は整っているが、予防処置業務は実施していない」と言うのと同じです。 紙面の都合で詳しいことは言えませんが、労働安全マネジメントシステムの国際規格:ISO45001(20018年度版)からは「予防処置」と言う用語が消えています。これは他のQMSやEMSなどにも共通する大きな変化です。 「予防処置」と言う用語は消えましたが、代わりに「リスクアセスメント」と言う言葉が前面に押し出されています。組織として今後、社会に貢献する上で、リスクアセスメントをおろそかにしては、様々な課題全般に対する効果的な予防処処置を実施していることを、客観的な証拠に基づく説得力ある説明ができないと言う事です。 以上の話の内容はこちらのPDFでご覧ください |
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阿蘇・米塚 2018年晩夏 |
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